【ゼノン】ストイックに生きるとは?

こんにちは。本宮 貴大です。

2020年、新型コロナウィルスが日本でも流行し始めた時、スーパーやコンビニの棚からティッシュやトイレットペーパーがなくなりました。どこからか「発生源である中国から輸入が途絶える」というデマが広がったようです。実際、日本が中国からトイレットペーパーを輸入しているという事実はないのですが、それを信じた人達が、買い占めを行ったからです。

人は先の見えない未来に不安や恐怖を感じてしまいます。その結果、衝動的に行動しやすくなり、根拠のないネガティブな噂(デマ)も広がりやすくなり、互いに資源の奪い合いを始めます。普段では考えられない行動をとってしまうのです。
そんなとき、どうすれば良いのでしょう。今回解説するストア派は、そんな時代や環境の変化による不安や恐怖に翻弄されないための方法を説いています。

ストア派の思想が生まれたのは、ヘレニズム時代という時代の転換期に生まれた思想です。民主政を完成させたアテネは、スパルタとのペロポネソス戦争によって国力を落としました。そんな中、北方のマケドニア王国が、ギリシャ全土を支配下に置いてしまいました。ギリシャの民主政は解体され、専制国家に組み込まれたのです。
さらに、マケドニア国王のアレクサンドロス大王は、オリエントに遠征し、シリア、エジプト、イラン、インダス川に至るまでの大帝国を築き上げました。これによって、ギリシャの文化がオリエントに伝わり、またオリエントの文化がギリシャに入ってきました。これのヨーロッパ文化とオリエント文化の融合をヘレニズムといいます。アテネでは、ポリス市民としてではなく、世界市民(コスモポリテース)として生きていく必要に迫られました。

アテネ市民は、時代や環境の変化に恐れをなし、今後、どのように生きればよいかを模索し始めました。そんな時、現れた思想がセノンを祖とするストア派エピクロスを祖とするエピクロス派でした。
まず、両者の違い(以下、表)を理解してから、ストア派について解説したいと思います。

ストア派 エピクロス
禁欲主義 快楽主義
自然に従って生きよ 隠れて生きよ  
不動心 穏やかな心

ストア派は、ストイックの語源にもなっている通り、感情や欲に負けない心を持つべきだとする禁欲主義をとっています。
しかし、それは単に「感情や欲を我慢しろ」という意味ではなく、不安や恐怖を感じたときこそ、自身を律し、理性的に行動する必要があるという教えです。理性を失った人間ほど恐ろしいものはないのです。
先述通り、人間は先の見えない未来に不安や恐怖を感じます。その結果、社会は混乱し、争いや不正などが頻発してしまいます。
そんなとき、ストア派では、「自然に従って生きよ」と説いています。自然は常に中立的な立場で、規則正しく動いています。太陽は東から昇り、西に沈み、夏になれば気温が上がり、冬になれば気温が下がる。その法則が崩れることはありません。また、自然には感情がないため、不安や恐怖を感じません。ゼノンは、人間もそんな自然のように規則正しくムラのない生き方をするべきだとしました。
そのためには、時代や環境の変化に動じない強い心を持つことが大事だとした。ストア派では、その心を不動心(アパテイア)と呼んでいます。
ストア派の思想は、ローマ帝国にも引き継がれ、キケロセネカエピクテトスなどがストア派の哲学者として知られています。
そして、第16代ローマ皇帝マルクス・アウレリウスがいます。マルクスは、皇帝としての業務の合間に『自省録』を書きました。ここには、時代の変化に翻弄されて、日常の業務やルーティンワークを蔑ろにしてはいけないという教えがあります。万物とは、絶えず生成消滅を繰り返すものであり、その変化に良い悪いという評価を与えているのは、人間である。神が創造したこの宇宙は、極めて中立であり、その理法に従うことが、自身を律することに繋がるのだと。
そのうえで、マルクスは、「自分が、毎朝、無事に起きることが出来たのは、神の計らいによるものである。そんな神に報いる方法は、自分の責務を果たすことである。」としました。

今回は、ストア派について解説しました。ストア派は、実社会の変化に正面から向き合い、自身を律する方法を説いています。
現代社会は、変化の激しい時代です。その変化のスピードに人間が追いつけていません。しかし、そんな時代の変化に翻弄されていては、日常生活やルーティンワークはままならない。そんなとき、自然のような原理原則に立ち返り、規則正しく、ムラのない生活を送る必要があるのです。