【アリストテレス】物事の本質はどこにある?

こんにちは。本宮 貴大です。

 

「君、この問題の本質は何だと思う?」

そんなことを聞かれたことはないでしょうか。物事の本質を見抜くにはどこに着目すればよいのでしょうか。

いくつか例を出してみたいと思います。

アメリカが日本に原爆を落としたのは正しかったか?」という質問に対し、アメリカ人のおよそ6割は「正しかった」とし、その理由は「それによって戦争を終わらすことが出来たから」だと答えているようです。

日本人からすれば彼らの品格を疑うくらい衝撃的な答えですが、これは物事の「結果」であって、「原因」ではない。つまり、「なぜアメリカは日本に原爆を落としたのか」についてしっかり学んだうえで回答しないと、この問題の本質を突いているとはいえない。

また、「貴方が欲しいものは何ですか?」という質問に「お金!」と即答する人がいます。しかし、これは物事の「手段」であって「目的」ではない。

お金は、あくまで交換の道具であり、その人はお金で交換出来る何かが欲しいのであって、お金そのものが欲しいわけではないですよね。(一部そういう人もいますが。)

このように物事の本質とは、「原因」や「目的」のことを言います。アリストテレスは、この2つを組み合わせて「目的因」としましたが、物事の成立には4つの原因があるとする四原因説を唱え、物事の本質に迫りました。以下、四原因説を示します。

  • 始動因・・・物事を動かす原因

  • 質料因・・・物事を構成している原因(材料・素材)

  • 形相因・・・収まっていくべき形態

  • 目的因・・・目指されるべき目的

この四原因説は、住宅の建設(施工)を例にするとわかりやすいです。新築住宅が欲しいと思うAさん家族がいととします。その発注を受けた設計事務所が設計図書を書きます。そこには、木材やコンクリート、鉄やステンレスなどの材料が事細かく記載されます(質料因)。また、住宅の図面や竣工(完成)イメージも描かれています(形相因)。この設計図書をもとに大工が住宅を施工(工事)していくわけですが、そのときの大工には「報酬を得るため」だったり、「職業としてのやりがい」などの何らかの動機付けがあります(始動因)。そして、竣工した住宅は、発注者であったAさん家族に引き渡されるのです(目的因)。

 

アリストテレスは、プラトンの弟子ですが、彼はプラトンイデア論を批判しました。プラトンは、物事の本質は現実世界とは別の、全てが完全である世界(イデア界)にあるとしました。これに対し、アリストテレスは、物事の本質はあくまで現実世界にあり、物事ひとつひとつに内在しているとしました。

そこで重要とされるのが、形相因と質料因です。例えば、椅子があったとすれば、プラトンは「この椅子は、イデア界の不完全なコピーに過ぎない」としますが、アリストテレスは「質料としての木材が、椅子という形相に収まっている」とするのです。

 

また、アリストテレスは、四原因説のなかで、目的因を重視した目的論的自然観を持っていました。目的論的自然観とは、あらゆる物事は可能性をもっており、運動変化することによって、実現し、そして実現された状態を生かして活動をしているという考えです。例えば、イモムシは蝶になる可能性をもっており、それがサナギになって運動変化をすることで、実現し、以後、蝶として活動をしていくのです。

これを人間に当てはめるとどうなるでしょう。アリストテレスは、人間は「徳を持った人」になる可能性を持っており、徳のある行動を続けることで(運動変化)、実現し、以後、徳のある人間として生きることが出来るとしました。

 

今回は、物事の本質について解説してみました。プラトンイデア論に比べてかなりわかりやすかったと思います。その証拠に、当時のアテネでもプラトンの理論は受け入れられず、むしろアリストテレスの理論の方が、後世のヨーロッパやイスラーム教圏に大きな影響を及ぼしています。

現在、企業などでで「なぜなぜ分析」という手法で、直面する問題の解決が図られています。問題の本質を見抜くには、「原因」を見つける必要があるのです。その原因を4つに分類し(四原因説)、その中で特に重要なのは、目的因であるとしたのがアリストテレスだったのです。